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長崎地方裁判所大村支部 昭和33年(わ)33号 判決 1958年8月26日

被告人 前田学

主文

被告人を罰金一万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

未決勾留日数中五十日を一日金二百円の割合を以つて右本刑に算入する。

本件公訴事実中窃盗の点はいずれも無罪。

理由

被告人は正当の事由がないのに、昭和三十三年四月十八日諫早市厚生町中山茂一方においてダイナマイト四十五本、同半分のもの二本、雷管四十八本、黒色火薬二百二十匁を所持していたものである。

(証拠略)

法律に照すと被告人の判示所為は火薬類取締法第五十九条第二号第二十一条罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するから所定刑中罰金刑を選択し、その所定罰金額の範囲内で被告人を罰金一万円に処し、若し右罰金を完納することができないときは刑法第十八条に従い金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、尚同法第二十一条を適用し未決勾留日数中五十日を一日金二百円の割合を以つて右本刑に算入すべきものとする。訴訟費用(弁護人詑摩棟雄に支給した分)については刑事訴訟法第百八十一条第一項但書に従い被告人をしてこれを負担させないことにする。

尚本件公訴事実中被告人が(一)昭和三十三年四月十六日午後三時頃諫早市清水町第一字中田部落公民館内において筒井秋穂管理に係るケンサキスコツプ六個外二十点(時価九千八百五十円相当)を窃盗し、(二)同年四月十八日午前十一時頃右同所において右同人管理に係るダイナマイト四十五本、同半分のもの二本、雷管四十八本、黒色火薬二百二十匁を窃取したという訴因につき考察するに本件において取調べた証拠によると被告人は昭和三十三年二月頃より土工数名及び諫早市清水町中田部落民十数名と共に前示筒井秋穂に雇われ、諫早市清水町所在長田川水害復旧工事に従事していたものであるが、前示筒井が事業に失敗し十数万円(自己の分三、四千円)の賃金を支払わざるのみか、工事現場に姿もみせずその所在を明らかにしなかつたので、それ等賃金の支払を促進して前示筒井の反省を促すため、本件物件を前示筒井には無断にて中田部落公民館より白昼持出し、ケンサキスコツプ等は同所より約三、四粁離れた所に、火薬類は判示中山茂一方に、夫々置場所を替えたこと、(いずれも前示筒井がその頃出入を予定されていた場所である。)しかして若し前示筒井に於て右賃金の支払について、誠意を示し、その方途を講ずれば何時でもこれを返還する意思があつたこと、尚被告人は前示筒井を困惑せしめ、同人に鬱憤をはらすため、又は未払賃金の代物弁済に充てるため本件物件をひそかに自己の管理に移したものでないことをも、いずれも認めることができる。右認定に反する証拠は当裁判所信用しない。かように観じ来れば被告人が本件物件を持ち去る際、不法領得の意思があつたとは認められないから、本件訴因はいずれも犯罪の証明がないことに帰し、刑事訴訟法第三百三十六条後段に則り無罪の言渡をなすべきものとする。尚一言附加するに、かように被告人が本件物件を無断に持ち去り置場所を替えたことは刑法第二百六十一条の器物毀棄罪に該ることは明らかであるところ、本件記録を精査するも被害者の告訴が認められないので、当裁判所は敢えて訴因変更の手続を採らなかつたものである。よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 富川盛介)

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